遠くの街

Haru and Mina

2015.10.10 ,

濱田英明「ハルとミナ」高知

近年、身近な友人知人の元に新しい命がぞくぞくと誕生しています。SNSなどで彼らの小さく大きな成長を垣間見ながら、人ひとりを育てること・育っていくことって本当に偉大だと何度でも感動してしまいます。
現在高知ではフォトグラファー濱田英明さんの写真展『ハルとミナ』が開催されています。初日に行われたトークショーで、子どもの写真を撮ること、見ることがますます愛おしくなりそうなお話を聴いてきたので、記しておきます。

普遍的な「子ども」の共鳴装置

2人の子どもたちが生まれてから写真を撮り続けている。
ハルとミナ、彼らを撮影していると、
ふと幼い頃の自分かのような錯覚が起こることがある。
それはまるで僕自身がふたたび人生を生き直しているさまを
間近で眺めているような不思議な感覚だった。
STATEMENTより抜粋

『KINFOLK』(アメリカ)『FRAME』(オランダ)や『THE BIG ISSUE』(台湾)などの海外雑誌他、国内でも雑誌、広告などで幅広く活躍されているフォトグラファー濱田英明さん。
展のタイトルにもなっている「ハルとミナ」とは濱田さんの2人のお子さんの名前。2009年から続くシリーズ『ハルとミナ(Haru and Mina)』では、日常の中の飾らない兄弟の姿が、明るく瑞々しい色彩とともに収められています。

トークショーの舞台となったのは、展の会場のひとつ terzo tempo 二階の和室。「ボーダー&ニットキャップがドレスコード!?」と、人懐っこく朗らかな濱田さんのトークが始まりました。

『ハルとミナ』シリーズの写真スライドを見ながら、どのような思いをもってライフワークとも言えるこのシリーズを撮り続けているのかを語って下さいました。

濱田英明写真展『ハルとミナ』

見た人の中の記憶を見てほしい。

親が子どもの写真を撮り、作品として発表する。
それを通して濱田さんが表現したいのは、我が子の魅力や成長を伝えることではなく、見た人の中にある記憶あるいは原風景を呼び起こすことだそうです。

『ハルとミナ』の写真を見ていると、これぐらいの年齢の男の子って、こういうことするよなあ〜といった「あるある」にしばしば遭遇します。私には2人の弟がいるのですが、「ハルとミナ」を通して、今はもう良い歳の弟たちを思い出さずにはいられませんでした。ヒーローのお面を被ってポーズをとったり、2人だけに分かる謎のルールでえんえん遊んでいたり。くだらなくて、突拍子もなくて、感想よりも先に笑いが飛び出すような。

シリーズを通して、被写体である2人がこちらを見ていない、カメラを意識していないありのままの姿が切り取られていることも、この効果を増幅させているように思います。いわゆるニコパチにはない、子どもだけが持っている世界を覗き見ているような感覚がそこにはあります。

7割の段取りと3割のハプニング

会場からの「予測のつかない子どもの動きをうまく写真に収めるには?」という質問に対し、濱田さんは「ずっと写真を撮っていると良いものが取れそうな“嗅覚”が発達してくる」と答えていらっしゃいました。面白いことが起こってからではなく、“起こりそう”な予感に従ってカメラを構えるのだと。

けれどそれを遥かに超えるオモシロが起きてしまうのが子ども、ともおっしゃっていました。シリーズの中には「やらせかよ!?」と疑われそうな超絶ショットがいくつもあるのですが、やらせは一切なく、全てなりゆきで起こった一コマなのだそうです。

また、撮り続けていることで、撮られる側の2人にもカメラに対する構えのようなものがなくなっていくのだそうです。「7割の段取りと3割のハプニング」というのは、写真に限った話ではなく、子を持つ親の日常なのかもしれません。

親子の時間軸

2人が成長するにつれて、初めはうんと近かったカメラとの距離が、だんだん遠くなっていっているというお話も興味深かったです。濱田さんは「客観性」という言葉を使っていらっしゃいましたが、あるいは普遍性が成り立つ距離と言えるのかもしれません。

シリーズの中には、被写体である子どもとカメラマンである親、それぞれの時間軸とその関係性の時間軸とが横たわっていて、刻々と変化し続けているということでした。
子どもの写真を撮ること・見ることに付きまとう、愛おしさと同じくらいの一種の切なさというのは、これらの時間軸が持つ本質的な解離性、不可逆性を暗に感じてしまうからなのかもしれません。

女の子の赤ちゃんを連れたご夫婦のパパから「いつまで娘の写真を撮れるだろう? そのうち嫌がられるようになるかな?」と質問がありました。それに対し「嫌がられる感じも含めて成長の記録だし、それをどう撮るかもカメラマンの腕」と濱田さん。
また、「このシリーズ(ハルとミナ)として撮れるのは18歳ぐらいまでかなあ」とし、それ以上になるとまた性質の違う作品になるだろう、ともおっしゃっていました。それはきっと、誰もが持っている「子どもとしての普遍性」の表現から脱し、人格をもった個人と向き合う表現になるタイミングなのかなと思いました。

濵田英明さんのPentax 67II
シリーズ『ハルとミナ』の写真は全てこのPentax 67II で撮られているそうです。兄弟を取り続けてきたカメラがモノとして残るのが良い、と。

写真集という編集の妙

トークショーでは、写真集「ハルとミナ」のメイキングについても貴重なスライドを交えてお話いただけました。
35歳でデザイナーからフリーのフォトグラファーに転身されたという濱田さん。2012年に初めて台湾で出版された写真集「Haru and Mina」では、ご自身で全て編集デザイン装丁まで行われたそう。そして満を持して2014年に出版された日本版では、作品をより客観的に仕上げるために編集者とデザイナーを迎えて制作されたそうです。

ストーリーが生まれるようなページ構成や、とっておきの写真の配置などは、どうしても主観が入ってしまうご自身からは絶対に生まれてこない「編集マジック」だと目を輝かせながらお話されていたのが印象的です。第三者の目が加わることで、シリーズ『ハルとミナ』に込められたテーマがより立体的なものになったのだと伺えます。

写真集『ハルとミナ』日本版
写真集『ハルとミナ』日本版

制作過程で出された3つの表紙写真案についても明かしてくださいました。
1つめは「売れる」が確信できるキャッチーなもの、2つめはシリーズのコンセプトを表すようなもの、3つめはシリーズの未来を予感させるもの。
会場のお客さんに3つの案で多数決がとられたのですが、その結果は制作現場での意見とほぼ同じで、2つめの「兄弟が扇風機に向かって熱唱している写真」となりました。実際に表紙になっているのもこの写真です。

ちなみに1つめの「兄弟が並んでカメラ越しにこちらを覗いている写真」は特装版の表紙に採用されたそうです。この写真も思わず笑みがこぼれてしまうようなキュートな作品です。

写真集『ハルとミナ』特装版
出典:写真集『ハルとミナ』特装版|リブロアルテ

加えて、徹底して品質にこだわったという写真集の印刷についてのお話も非常に興味深かったです。印刷をされたのは富山の山田写真製版所。画期的な10機印刷のお話や、“伝説のプリンティングディレクター” 熊倉桂三氏による「Kカーブ」のお話など、写真をCMYKの印刷に落とし込むための繊細かつマニアックな世界を垣間見ることができました。

sonobe nobukazu「生活」MV

トークショーでは最後に、高知出身のシンガーソングライター園部信教さんの「生活」という曲のMV誕生秘話についても聞かせてくださいました。
もともとは園部さんのファースト・ソロアルバム『生活』のためのアーティスト写真を依頼されていた濱田さん。その撮影の流れで「MVも…」ということになり、初の映像作品制作となったそうです。

園部さんの優しい音色とともに流れるのは、高知の街を舞台にした何気ない生活の風景。ただし高知と言っても、桂浜!日曜市!ひろめ市場!といった「ザ・高知」な場所ではなく、高知に暮らしている人なら「あ、ここあそこだな」と分かる程度のものです。

このチョイスについて濱田さんは、「ハルとミナと同じように、特定の誰か・どこかではなく、見た人それぞれの日常と入り混じるような匿名的な風景を撮りたかった」とおっしゃっていました。

また、映像の撮り方についても、写真を撮る時と同じようにカメラ固定して構えて、その前で起こったことをありのままに撮影したそうです。なるほど言われてみれば「生活」のMVは、写真の一部が動くシネマグラフが次々と展開されるような映像になっていることに気づきます。
映像作品であっても「濱田さんの写真」が感じられるのは、このようなコンセプトと手法によるところもあるのですね(もちろん濱田さんの腕も!)。

sonobe nobukazu 『生活』特設サイト

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濱田英明「ハルとミナ」高知
もう一つの会場 rusk では、写真集の台湾版と日本版の表紙となった写真が並べて飾られていました。

濱田英明 写真展『ハルとミナ』は10月18日まで開催中です。

“Haru and Mina” Hideaki Hamada Exhibition
濱田英明 写真展『ハルとミナ』

会期:2015年10月3日(土)〜10月18日(日)12:00–19:00 ※水曜定休
会場:terzo tempo・rusk
terzo tempo 高知市桜井町2-5-30 / 080-6559-2013
rusk 高知市城見町7-11 / 088-855-4431

参考リンク

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