この記事は「アクセシビリティ Advent Calendar 2022」3日目の記事です。
2022年11月28日に書籍『見えにくい、読みにくい「困った!」を解決するデザイン』を出版しました。はじめましての方に会う機会が増え、「アクセシビリティやユニバーサルデザインに興味を持ったきっかけは?」と聞かれることも増えました。そこで改めて、私にとってのアクセシビリティについてまとめてみたいと思います。
アクセシビリティとの出会い
私がアクセシビリティに興味を持つようになったきっかけは、 私とウェブデザインとの出会いにつながっています。
私のデザインの基礎
私は雑誌やカタログのデザインからデザイナーのキャリアをスタートしました。そこでは、情報の構造を視覚的に表してわかりやすく伝えるデザインを学びました。
- 全体の構成をつかむ
- 各要素がどんな役割かを整理する
- それにふさわしいビジュアルを作る
例:タイトルはタイトルらしく、並列関係、親子関係など
この考え方は、印刷物全般のグラフィックデザインをするときにも役立ちました。いわば私のデザインの基礎の基礎という感じです。
HTMLとの出会い
その後、ウェブのデザインを始めるときに、HTMLとCSSを学びました。HTMLでは文章に見出しや本文など、それぞれの役割に合わせたマークアップを行います。それに対してCSSで見た目を与える方法を知ったとき、「これは今までやってきたデザインと同じだ!」と興奮しました。
さらにHTMLとCSSは独立していて、CSSが外れて見た目が変わっても、HTMLで見出しとしてマークアップした要素の役割は変わりません。グラフィックデザインでは見出しが「見出しに見えるように」ビジュアルを作っていたのが、HTMLでは見た目が変わっても情報が伝わることにロマンを感じました。
テーブルレイアウトの葛藤
しかし当時(2014年頃)勤めていた会社で教わったのは Dreamweaver を使ったテーブルレイアウトでした。表組みでレイアウトし、たくさんの画像を貼り付け、リンクはクリッカブルマップを使う……見た目こそデザインカンプに近いものが再現されていましたが、その裏にあるコードはひどい有様でした。クライアントやそのお客様は裏側まで見ないかもしれませんが、これで良いはずがない、ちゃんとマークアップする意味って何だろうと苦しく思っていました。それに答えをくれたのがウェブアクセシビリティでした。
『デザイニングWebアクセシビリティ』の救い
『デザイニングWebアクセシビリティ』は、ウェブ制作の流れに沿ってアクセシビリティの問題と解決策が解説された本です。この本を読んで、印刷物からウェブのデザインを始めて感じていた不安や迷い、モヤモヤが一気に晴れました。デザインとはビジュアルに閉じた話ではなく、設計から実装までの工程を含めて成り立つこと、「ちゃんと」作ることがより多くの人に情報を伝えることにつながるという確信を『デザイニングWebアクセシビリティ』は与えてくれました。
アクセシビリティからの出会い
しかも「より多くの人」とは、私が想像していた以上の可能性を秘めていました。例えば、目が見えない人もスクリーンリーダーを使って情報にアクセスできること、マウスが使えない人もキーボードを使って操作できること、ロービジョンの方が画面を大きく拡大してハイコントラストモードにしてウェブを見ていることなど、それまで知らなかったウェブの使われ方やユーザーの姿を知りました。
アクセシビリティがきっかけでユニバーサルデザインにも学びを進めていきました。そこでは色や文字について、これまで自分が行ってきたデザインが伝わっていなかったかもしれないという気づきや改善のヒントをもらいました。
どうしてアクセシビリティに取り組むか
自分にない視点を与えてくれるから
アクセシビリティについて学ぶたびに「どんな人がこんなふうに困るから、こうしよう」という発見があります。アクセシビリティやユニバーサルデザインは、自分の思い至らなかった点を教えてくれます。見え方や感じ方、状況は人によって異なるからこそ、自分にない視点を知ることは大切だと考えています。
利用者全体のユーザビリティが向上するから
アクセシビリティを高めると利用者全体のユーザビリティが向上することは、アクセシビリティに取り組むの魅力のひとつです。例えば、字幕は耳が不自由な人だけでなく、 聞こえる人が内容を理解するためにも役立ちます。私は動画や音声で情報を得るのが苦手なので、テキスト版があれば好んでそちらを利用します。
自分が当事者だったから
私がアクセシビリティに取り組むもうひとつの理由に、かつて自分が当事者だった経験があります。先述の会社でうつ病を患い、長期の休職や入退院を繰り返した時期がありました。うつ病では気分の落ち込みだけでなく、身体面や思考力にも多くの症状があらわれました。具体的には次のような場面で困りました。
- 強い光や大きな音にひどく疲れてしまう
- 意図しないタイミングで画面上の要素が動くと目眩がして見続けるのがつらい
- プレースホルダーがラベル代わりになったフォームで、入力すべきことがわからなくなる
- 手が震えて細かい操作や静止するのが難しい
- 長文が読み続けられず、ややこしい制度の文書が理解できない
今はすっかり元気ですが、このように一時的に、あるいは年齢を重ねることで、それまで当たり前にできたことができなくなる状況は誰にでも起こるものだと身をもって実感しました。
何かできないことが生じても、決してその人自身が失われたり劣ったりする訳ではないと、その頃感じた悔しさや悲しさから強く思っています。 自分がデザインしたもので誰かを疎外するようなことはしたくないと考えるようになりました。
私の取り組み方
普段のデザインに取り入れる
2022年は高知こどもの図書館さんのウェブサイトリニューアルに関わる機会をいただきました。このプロジェクトでは、初期段階からアクセシビリティを担保したいという意識が共有されていました。規格に則った試験こそ行いませんでしたが、身の丈に合わせて取り組みを続けるためにさまざまな工夫をしました。
それ以外では規格への準拠や「アクセシビリティ対応」が要件に入ったお仕事は今のところほとんどなく、普段のデザインでアクセシビリティを高める方法を取り入れています。なぜやるのかといえば、私にとってアクセシビリティに取り組むことは、情報を受け取る人の目線に立って考え、伝えたいことにふさわしい形をつくるというデザイン行為そのものだからです。
試したことを発信する
時々、私の発信を見た同業の方からお声がけをいただくことがあります。しかし私がやっているのはごく基本的な、ちょっと手間をかければ誰でもできることばかりです。情報発信に関わる人みんなの基礎知識として、アクセシビリティが根付いていってほしいなと考えています。
そのためにも、普段の仕事からできることを取り入れ、今後も試したことを発信し続けていきたいと思います。
出演情報
朝までイラレ
2022年12月28日の夜から29日の朝まで、30人が Illustrator について語る年末特別配信です。当日の視聴は無料、アーカイブ付きのチケットもあります。
見えにくい・読みにくい・わかりにくい「困った!」を解決するユニバーサルデザインの視点(CSS Nite)
2023年1月14日(土)21:00〜23:00 開催のオンラインセミナーです。ユニバーサルデザインの視点から、情報の視覚化にまつわる「困った!」を「こうしよう!」に変えるヒントをお伝えします。当日の視聴は無料、アーカイブ付きのチケットもあります。