読書バリアフリー研究会に参加しました

2023年9⽉23⽇に開催されたオーテピア開館5周年記念「読書バリアフリー研究会 ~みんなに読む喜びと楽しさを伝えよう~」に参加しました。

午前から午後まで4つの講座があり、全体を通して良い問いとヒントがたくさん得られました。印象に残ったことや気づき、感想をメモとして書き留めておきます。

障害の有無を問わず楽しめる「聴く読書」

1つめの講座は、audiobook.jp を運営するオトバンクの上田渉さんのお話でした。

当初は視覚障害者向けの読書支援サービスを検討していたものの、市場が小さく事業をスケールできないことから、肝心の当事者に届かないという課題がありました。そこでサービスの対象者を広げて、障害の有無を問わず誰もが楽しめるオーディオブックを普及させる事業へとシフトしたそうです。

通信環境の整備やワイヤレスイヤホンの登場、サブスクリプションサービスの浸透など「聴く環境」の変化により、近年オーディオブック市場は急成長を続けています。audiobook.jp の利用者は20代のビジネス層から60代以上のシニア層まで幅広く、会員数は250万人を超えています。

耳で聴く読書に親しむ人が増え、身近な存在になれば、読書に困難のある人やその支援者にもサービスが届きやすくなります。加齢や病気などで紙の本が読みにくくなっても、読書の楽しみを持ち続けられます。

優位感覚に合った読書スタイル

情報をインプットするとき、目で見て理解するのが得意な人もいれば、耳で聞いて理解するのが得意な人もいます。オトバンクの自社調査では、ビジネスパーソンの7割は耳を使った学習が向いているという結果が得られたそうです。

※上記の調査結果では、言語感覚系と聴覚系を合わせて「耳で聴く学習が合っている」とされています。全体の5割を占める言語感覚系を耳と目のどちらに含めるかは議論が分かれるところかなと感じました。

私自身は視覚優位で、文字や図を見る方が理解しやすく、音声や動画から情報を得ることが苦手です。しかし最近は積読が増えていることもあり、これまで食わず嫌いだった audiobook.jp と Audible を帰宅後に試してみました。

初めて聴く内容はかなり集中しないと理解が追いつかず、文字を見たい欲求に抗えませんでした。一方で、過去に読んだことのある小説は心地よくBGMにできると気付けたのは収穫でした。語り口にもさまざまなスタイルがあり、私はナレーターの気配を感じない淡々としたものが聞きやすく感じました。

読書ってなんだろう

2つめの講座は、読書工房の村上文さんの「自分にあった本やメディアの読み方・選び方」でした。

はじめに「読書って何でしょう」という問いかけをされたのが印象的でした。私たちは子どもの頃から「読書は良いもの」「本を読みましょう」と教えられますが、何のために読書をするのでしょうか。

紙の本をめくって読むことだけが「読書」ではありません。自分に合った方法を選んで楽しみ、新しい世界や言葉や知識、感情に出会うことで人生は豊かになります。

  • 誰かに読んでもらう
    • 障害によっては一斉の読み聞かせでは内容が伝わらないこともある
    • 何歳になっても読み聞かせして良い
  • マンガで読む
    • 漢字にルビがあり、口語体で展開するので日本語が母語でない人にもわかりやすい
  • 音声読み上げやオーディオブックを聴く
  • ドラマや映画などの実写版を観る
  • 大活字本や拡大写本を読む
  • やさしくリライトされた本を読む

今年発行された書籍『読書バリアフリー 見つけよう!自分にあった読書のカタチ』でも、さまざまな読書方法がたくさんの写真や図入りで紹介されています。高知の電子図書館やオーテピアも載っています。

読書に苦手意識のある人が図書館を訪れるには

図書館には読書をサポートするさまざまな本やサービスがあり、選び方や使い方を教えてくれるスタッフがいます。オーテピア図書館にも、書店には並んでいないような本や機器が揃っています。しかし、そもそも本を読むことに苦手意識がある人にはどのようにアプローチできるでしょうか。

村上さんからは、家庭や教育の場での読み聞かせなどを通じて「本を読むのは楽しい!」という経験をしたり、誘い合って訪れる機会を作ったりといったヒントをいただきました。本を読む以外のきっかけでも図書館との接点が増えれば、自分なりの読書の発見につながっていくかもしれません。

読書を支える道具とリテラシー

3つめの講座では、三宅洋信さんから「見えにくさ」をサポートする道具やサービスの紹介がありました。先天性のロービジョン当事者であり、筑波大学附属視覚特別支援学校の先生でもある視点から、最近の中高生のリアルな傾向も交えて楽しくお話しくださいました。

2022年5月、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が施行されました。今日の情報社会で、情報を自分で得られるかどうかは死活問題です。音声コンテンツが増えているとはいえ、一次情報には文字情報が圧倒的に多いのも事実です。「見えにくい」状況でも主体的に情報を得るためには、さまざまな道具やサービスのメリット・デメリットを知って使い分けることが有効です。

例えば、インターネットや蔵書検索システム、予約・配本サービスを活用すれば、目的の本を効率的に手にすることができます。一方、書店や図書館などの対面サービスでは、司書の方に調べ物を支援してもらったり、目的の本以外にも出会うセレンディピティが起こったりします。

道具やサービスの利用は、習得に時間がかかることもあります。しかし自分のニーズに合う方法を見つければ、より前向きに情報を活用できるようになります。

  • 使用時間や環境に合わせて、無理のない姿勢で読める機器を使う
  • 文字方向(縦書き/横書き)で読書の効率が異なることがある
  • 印刷物の紙質や色によって読みやすさが変わる人がいる
  • 読みやすさは人それぞれなので、対象者に合わせて読めない人がいないフォントを選ぶ

情報を活用するために、適切な情報を取捨選択できる情報リテラシーの必要性を挙げられていたのも印象的でした。検索結果の上位に出たものを疑いなくコピペしたり、読んでも内容が頭に入っていなかったり、自分の考えや意思を伝える語彙や表現力が足りなかったり……これは障害の有無によらず、現代人のスキルとして誰もが身につけていく必要のあるものだと感じました。

余談になりますが、私は以前にも三宅さんのお話を聴く機会があり、朗らかなお人柄と頭の回転の速さにすっかりファンになってしまいました。高知でお会いできたことが嬉しく、見えにくい・読みにくいといった社会の壁を少しでも取り除くことに貢献したい思いを改めて強くしました。

読むこと・書くことの目的と手段

4つめの講座は、学びプラネット代表の平林ルミさんの「ICTを用いた読み書きサポートの可能性と課題~学校・家庭でタブレット端末を活用する~」でした。読み書きが苦手な子どもたちが、紙と鉛筆に代わる筆記用具としてタブレットを活用している事例をご紹介いただきました。

  • 文字の読みに困難があり、読書を楽しめない子
    • 保護者の方も読み聞かせに充分な時間が取れず困っていた
    • Kindleの読み上げ機能を紹介したところ、夏休みの読書量がぐんと増えた
    • 多動の傾向があるが、トランポリンに寝転がってKindleを使うなどリラックスして読書を楽しんでいる
  • 文字の手書きに困難があり、作文が書けない生徒
    • 文字を書くことに精一杯で、考えがうまくまとめられない
    • 手書きしたものを自分で読み返せない
    • Wordを使うことで、自分の考えをしっかり作文に表現できた
  • 理科のテストで漢字表記が指定されていて、答えはわかっても正解できない
    • 選択式のテストで正解できるようになった

iOSのテキスト認識機能を使って写真の中の文字を読み上げるなど、新しい技術で解決できることはどんどん増えています。読むことの目的は情報を得ること、書くことの目的は情報を記録/伝達することです。特性に応じて読み書きの手段を選べるようになれば、その人の能力がより良く発揮できるようになります。

取り除くことで気づかれるバリアもある

子どもの特性に応じた学習方法の許可を学校で得るには?の質問に、「許可を得てからではなく、実践してから結果を示して許可を取るのがコツ」と平林さんは回答されていました。「この方法なら、できなかったことがこんなにできるようになる」という差を見せることで、従来の方法がネックになっていたことを理解してもらいやすいそうです。

「取り除くことで気づかれるバリアもある」というフレーズにハッとしました。


直近で関わっている仕事のヒントにもなるお話がたくさん聞けて有意義な研究会でした。

10月にもロービジョンケアと読書バリアフリーを扱うセミナーがあるので参加を申し込みました。