写真:両手を広げてジャンプするワンピースの女性

手話つき演劇ワークショップ「ひょうげんしてみよう」を見学しました

先日参加した CSS Nite LP62「Webアクセシビリティの学校」特別授業で初めて聴覚障害当事者の方のお話を聴き、手話通訳のかっこよさに目覚めました。

高知でも当事者の方や手話通訳さんと会える場があると良いなと思っていたところ、手話通訳つきの演劇ワークショップ「ひょうげんしてみよう」というイベントを発見しました。

身体で表現することは、子どもたちのコミュニケーション能力だけではなく、豊かな心も育みます。また、体験を分かち合う場は、互いの存在や違いを認め、それを楽しむ土壌を築くことにつながります。
障がいのあるなしに関わらず、多様な人がともに互いの存在を楽しみながら演劇作品をつくりあげる「いろいろいろを楽しむ演劇プロジェクト」の一環として、本ワークショップを実施します。

ワークショップ「ひょうげんしてみよう」コンセプトより

参加対象者は子どものみでしたが、主催の藁工ミュージアムさんにお願いして保護者の皆さんと一緒に見学させてもらいました。

会場の前方では、「コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ」UDトークを使ったリアルタイム字幕が投影されていました。アクセシビリティ系のセミナー以外で目にしたのは初めてで、妙に感動しました。

約束は2つだけ

この日の先生は「たけちゃん」ことシアター TACOGURA 主宰の藤岡武洋さん。小学校低学年〜中学生くらいの子どもたち10名ほどが参加していました。ワークショップをはじめる前に、2つだけ約束がありました。

「今日集まってくれたお友だちの中には、耳の聞こえない子、聞こえにくい子もいます。なので、2つだけお約束。

  1. 後ろから押したり叩いたりしないこと
  2. 正面に回ってから話しかけること

これだけ守ったら、あとはみんなで楽しく遊びましょう!」

ゲームでウォーミングアップ

はじめて会う子同士、はじめての場所で、知らない大人もいて、緊張ぎみの子どもたち。まずはゲームで身体を動かしてウォーミングアップを行いました。

いす取りおに

ひとり1脚ずつランダムに椅子を置いて、空いている席を鬼に取られないように協力して席替えするゲームです。

これがなかなか難しく、スタート早々あっさり鬼のたけちゃん先生に席をとられてしまいます。何度やってもすぐゲームオーバーになってしまうので、作戦会議タイムをもらいました。

「どうしたら鬼に席をとられんようになる?」
「鬼の近くの人が席を移動したら、すぐにとられちゃうよね」
「どこが空いてるか分からなくすればいいのかな」

3分の作戦会議タイムを経て、再び鬼来襲。
今度はかなり善戦できました!

みんなで考えた作戦は「鬼の背中側にいる人が、鬼を追い越して椅子を取りに行く」というもの。鬼はどの席が空いたか分からず、きょろきょろと苦戦していました。短時間で出てきたナイスアイデアに、たけちゃん先生もびっくりしていました。

アイキャッチ&ムーブキャッチ

次は「アイキャッチ」というゲーム。全員で輪になって、当番さんが誰か一人ねらいを定めて熱い視線を送ります。周りの人は、自分と目が合っていると思ったら輪の中へ進み出ます。相思相愛になったら、中央でハイタッチ!

当番が一周したら、今度は誰か一人の動きをマネする「ムーブキャッチ」。
何気ない仕草を観察してまねて、誰のマネかな? 気づいてくれるかな? の無言の応酬がおもしろく、見事ハイタッチできた時には自然と笑いがこぼれていました。

演じるってどういうこと?

身体もあたたまり、お互いの顔と名前が一致してきたところで、少しずつ「演じる」を取り入れた遊びへとシフトしていきます。

消えるなわとび

スタッフのけんちゃんとナオミさんが、向かい合って腕を大きくぐるぐる回し始めました。そこへひょいっと入り、リズムよくジャンプするたけちゃん先生。

「何をしているでしょう?」
「長なわとび!」

みんなも順番に入って、中でターンしたり、全員で跳んだり、とても上手に「見えないなわとび」を跳んでいました。

たけちゃん先生が、ふと真ん中で棒立ちになりました。両側の2人が一生懸命腕を回していても知らん顔。すると、あんなに軽やかに回っていた「なわ」がみるみる見えなくなってしまいました。

演じる・伝え合う・助け合う

「どうしてなわとびは見えなくなってしまったんだろう?」

一人の女の子が「たけちゃんが、なわとびって分からなかったから」と答えました。「すごく良いことを言ってくれたね」とたけちゃん先生。演技をする上で大切な3つのことを教えてくれました。

  • 演じる
  • 伝え合う
  • 助け合う

一人で何かを演じているだけでは、演劇は成立しません。見ている人や一緒に演じている人にそれを伝えて、伝わったことを感じて、お互いに物語を共有することが必要です。ここまでのウォーミングアップは、遊びながらこの3つのことを実践していたのですね。

でたらめ桃太郎を演じよう

でたらめ物語の作り方

いよいよ演劇の台本づくりに取り掛かります。キーワードは「でたらめ」。まずは肩慣らしに、相手の質問にでたらめに答えるゲームをしました。

「昨日何食べた?」
「太陽!」

といった具合に。はじめは答えに悩んでいた子どもたちも、次第にポンポンでたらめが浮かぶようになりました。

2つのチームに別れてそれぞれ台本を作っていきます。題材になったのは、みんなご存知「ももたろう」。

「ももたろうは何からうまれた?」
「鬼退治に行くももたろうに、おばあさんが作ってくれたのは何?」
「ももたろうが一人目の子分にしたのは誰?」

でたらめな答えをみんなで出し合って、「ももたろう」が全くでたらめな物語に生まれ変わりました。

ココナッツ太郎と鼻太郎

最後に、各チームで作った台本をもとに劇を発表しました。演じてくれたのは、ちょっと陽気な「ココナッツ太郎」と、鼻からうまれた「鼻太郎(風邪気味)」。おばあさんの作ったトンカツを腰に、アフリカゾウやねずみ、ジャイアン、マダニを引き連れ、ムカデやゴキブリを退治して村の平和を取り戻しました。

どちらのチームも、いきいきとオリジナルの物語を演じていてびっくりしました。短時間で作ったとは思えないほど面白かったです。

また遊ぼうね

今回ワークショップを見学して印象的だったのは、聞こえる/聞こえないに関わらず、子ども達が純粋に遊びを楽しんでいたことでした。
すぐに身体が動く子、じっくり考えてから発言する子、恥ずかしがりの子、運動が得意な子……といった個性の方が、聞こえるかどうかよりも目立っていたのが面白かったです。

聴覚障害について触れられたのは最初の「2つのお約束」のみで、誰が聞こえないかには言及せず、道徳めいたお話も一切なし。手話通訳の方は先生の隣ではなく、必要な子に見える位置でさりげなくサポートされていました。

子どもの頃を思い返してみると、視覚・聴覚障害を持つ子と遊ぶ機会はほとんどなかったように思います。眼鏡や補聴器以上のサポートが必要な子は、盲学校や聾学校に通っていたのかもしれません。

子どもの頃は、学校と家とその周りが世界の全てのように感じられていました。今回のようなワークショップは、小さな世界を広げてくれる貴重な場だと感じました。聞こえる・聞こえないを超えて、ものすごく気の合う友だちが見つかることだってあるかもしれません。

「今日は楽しかったよ、ありがとう。また遊ぼうね!」で締めくくられたワークショップ。ぜひまた開催されたら良いなと思います。